事業承継対策の重要性

事業承継対策の重要性

同族会社などの中小企業おいて、その会社の株式を多数保有している方が亡くなると、会社の株式が相続人間に分散することがあります。また、同族会社などの中小企業では、親族が事業を承継することが多いと思われますが、事業承継者を誰にするかなどをめぐって遺産分割の場面などで相続人間で争いが生じることもあります。

会社の株式が相続人間に分散したり、事業承継者をめぐって争いが起きたりすると、その影響は、オーナー一族のお家騒動にとどまらず、会社の重要な意思決定ができなかったり、会社内部で対立・分裂が生じてしまったりと、中小企業では会社の存続に深刻な問題を与える可能性があります。

会社の事業承継(経営の承継)は、会社が存続する限り必ず訪れるものです。オーナー一族の求心力に頼らざるを得ない中小企業においては、事業承継(経営の承継)の重要性は高いといえます。そのため、早い段階から専門家による事業承継支援を受け、事業承継対策をしておくのが望ましいと思われます。

相続を契機とする会社支配権紛争事例

会社支配権紛争事例 ケース1

ある会社の株主が、下記の表のとおり社長40%、社長の妻15%、長男(副社長)30%、次男(公務員)15%であったとします。その後、社長が亡くなり、妻、長男、次男がそれぞれ、20%、10%、10%の株式を法定相続したとします。すると、妻、長男、次男の持ち分は、それぞれ35%、40%、25%となります。

社長
(死亡)
社長の妻 社長の長男
(副社長)
社長の次男
(公務員)
相続発生前の会社株式の保有割合 40% 15% 30% 15%
相続により取得した会社株式の割合 0% 20% 10% 10%
法定相続後の会社株式の保有割合 0% 35% 40% 25%

社長は長男の副社長に経営を委ねようとしていたとしても、会社の株式が法定相続されると社長の妻と次男が手を組めば、会社の株式の60%(35%+25%)を支配することができ、長男の取締役就任を阻止して会社を乗っ取ることができてしまいます。このように、相続発生前は社長と副社長の長男で70%の会社株式を支配していても、相続を契機として、長男の会社支配は転覆して、会社から排除されることもあり得る状況に陥ります。

会社支配権紛争事例 ケース2

A会社の株主が、下記の表のとおり社長60%、長男(副社長)35%、次男(B社社長)5%であったとします。社長は、次男には別の同族会社であるB社を任せようと考え、次男をB社の社長にしB社の株式の過半数を次男に与えていたとします。その後、社長が亡くなり、長男、次男、三男がそれぞれ、法定相続分に従って20%ずつのA社の株式を法定相続したとします。すると、長男の持分は過半数の55%を超えて株式を取得することになり、この会社の経営を行うことができます。

社長
(死亡)
社長の長男
(A社副社長)
社長の次男
(B社社長)
社長の三男
(公務員)
相続発生前の会社株式の保有割合 60% 35% 5% 0%
相続により取得した会社株式の割合 0% 20% 20% 20%
法定相続後の会社株式の保有割合 0% 55% 25% 20%

このケースの場合、法定相続分で遺産分割が終了すれば長男が会社の支配権を確保することができます。しかし、遺産分割協議が成立せず株式の帰属が決まらないまま株主総会を迎えた場合には、次男と三男が手を組めば長男の取締役就任を阻止することができ、長男の会社支配権は盤石とはいえません。亡くなった社長が思い描いたような形で事業が承継されるとは限らなくなりかねません。

その理由を説明する前に共有株式の議決権の行使方法について説明します。遺産分割が終了するまでは、会社の株式は共同相続人間で共有状態にあるといえます。相続人が株主総会で議決権を行使するには、原則として、株主名簿の書換えを行い、権利行使者を指定して会社に通知(会社法106条本文)する必要があります。そして共有株式の権利行使者は、管理行為として持分価格の過半数で行うことができ(民法252条本文)、共同相続人により共有されている株式の場合には、相続分に応じた持分の過半数で権利行使者を決定できると解されています(最高裁平成9年1月28日判決)。

共同相続人が子ども3人だけの場合、遺言などがなければその相続分はそれぞれ3分の1ずつということになります。共有株式の権利行使者の指定にあたって、次男と三男が手を組めば、共有株式の持分の過半数を確保することができ、共有株式を次男と指定し次男が権利行使することができます。すると次男は、自ら所有している株式の議決権と共有株式の議決権の合計65%の議決権を行使できることになり、長男の取締役就任などを拒否することができます。